


The Choice
August 5.
The two toggle switches remain off.
Choosing is not always the right thing to do.
So that history does not repeat itself—
With respect to Ryan.
無題
8月5日
2つのトグルスイッチは、まだオフのまま
選択することが正しいとは限らない
歴史が繰り返されないように
そして着想もとのライアンに
深い敬意を込めて
Category / Sculpture
Technique / Mixed Media
Size / H297×W420×D100, H1800×W1200×D200
Photography: Yudai Nakaya
Release / 2025
作品解説 & インタビュー
沈黙するタイトル——なぜ「The Choice」は「無題」と訳されたのか
中谷が発表した「The Choice」は、和訳ではあえて「無題」とされた。現代を生きる私たちに鋭い問いを突きつけるこの作品は、そのタイトルすらもまた、選択という行為のあり方を問う一部として存在している
作品の中央には、ふたつのトグルスイッチが並んでいる。ただし、どちらもオフのままだ。その姿は、まるで「選ばれることを待ち続けている」ようでもあり、あるいは「選ばれないことを祈っている」かのようでもある。沈黙するスイッチは、選択の持つ決定的な重みと、避けがたい責任を象徴している
本作は、イギリスのアーティスト、ライアンの作品へのオマージュであり、そのモチーフには、日本が経験した歴史的な被害の記憶が重ねられている。中谷はインタビューでこう語っている。「あの作品に出会って、選択の意味について深く考えさせられた。「無題」も、リスペクトを込めて、その延長線上にある」
作家は、1945年8月5日、爆弾が投下される前日をイメージの起点に据え、「スイッチが入る前」の時間を作品にとどめた。選択はまだなされておらず、見えない緊張感が張りつめている
「選択が、必ずしも正しいとは限らない」決断には本来、責任が伴うはずだ。しかし、どれだけ多くの被害を生んでも、勝者がその責任を問われることは一度もなかった。この構造こそが、20世紀の争いと思想が直面した“倫理の空白”であり、その問いは今なお、私たちの時代に再び突きつけられている。沈黙のまま、その感覚が観る者の胸に言葉にならない重みとしてのしかかってくる
中谷は「これは争いのメタファー」とも「投下への批判」とも言わない。安易に言葉を与えれば、意味は固定され、現実に起きた痛みや命の重さは、やがて記号のように薄れていってしまうからだ。だからこそ、日本語では「無題」としたのだろう
これは、名付けることを放棄したわけではない。英語ではあえて名を与え、その言葉に重みを込めて倫理を問うた。そして日本語では、名付けないという選択の中に、黙とうのような沈黙と祈りを託したのだ
「The Choice(無題)」は、時代を超えても問われ続ける倫理の原点となる
Art Commentator: Y. Kato