

Last Milk
Glasses of milk, stacked precariously.
Drink the lowest one dry, and from its underside the name of a primate appears. All of them are mammals that, like us, lived on this earth and were raised on their mother’s milk. Yet many are recorded on the Red List as endangered, beings that may one day vanish from this world.
Society drives globalization onward, consuming everything. But is that truly what should take priority, for the lives that are disappearing? Have we grievously mistaken our priorities?
If nothing changes, the glasses will empty and collapse.
What if we were the ones, next, to become those who fill?
Little by little is enough, as with the love and the milk once poured into us.
ラストミルク
不安定に積み重ねられた、ミルク入りのグラス
一番下のひとつを飲み干すと、その裏から霊長類の名前が現れる。それらはすべて、私たちと同じく地球上で暮らし、母乳で育った哺乳類たちだ。しかし、その多くは絶滅危惧種としてレッドリストに記され、いずれこの世から姿を消してしまう存在かもしれない
いま社会はグローバリゼーションを推し進め、あらゆるものを消費している。だがそれは、消えゆく命にとって、本当に優先されるべきことなのだろうか。私たちは、盛大に優先順位を見誤ってはいないだろうか
このまま何もしなければ、グラスは空になり崩れていく
次は私たちが、満たす存在になるのはどうだろうか?
少しずつでいい。私たちも、注がれてきた愛情やミルクのように
Category: Installation, Generative Art, Media Art
Medium: Spatial Installation, Real-time Generative Animation, Server, Display, Photography, Sculpture
Dimensions: H3000×W3500×D2000mm
Year: 2025, 2026
作品解説
飲み干されたあとに残るもの——共に生きる命と構造の話
透明なショットグラスに注がれたミルクが、不安定に積み重ねられている。どこか見慣れた日常のオブジェクトながら、このインスタレーションは、観る者の感覚を揺さぶる
「飲み干すと、グラスの裏から絶滅危惧種に指定された霊長類の名前が現れるようにした」
そう語る中谷が本作でモチーフとしたのは、哺乳類として私たちと同じく母乳を飲み、地球で育ってきた猿たち。だが彼らは今、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに記載され、その多くが静かに姿を消しつつある
この作品の制作にあたって、作家の内面には「経済成長を最優先にする社会構造」への根本的な疑念があった。グローバリゼーションが加速し、資源の大量消費や森林破壊、CO₂の排出が日常化した現代。ウルグアイの元大統領ホセ・ムヒカ氏が国際会議で投げかけた「それでも私たちは、もっと消費すべきなのか?」という問いは、まさにその疑念と共鳴し、作品の根底に深く根を下ろしている
「私たちは、知らないうちに無数の命を犠牲にして、豊かさを積み上げてきた。しかし、その“豊かさ”は、脆さと紙一重の張りぼてにすぎないのではないか。それは本当に、私たちを満たしていると言えるのだろうか」
その疑念は、ショットグラスタワーというかたちで具現化される。一つひとつに注がれたミルクは、生命の象徴であり、私たちが受け取ってきた愛情の記憶でもある。けれども、それらは不安定に積み上げられ、わずかな力でもいともたやすく崩れてしまう。構造の危うさは、いまの社会そのものを暗示している
「グラスは、雑に扱えば割れてしまう構造にした。どんなに小さな力でも、それが積み重なれば、やがて大きな力となり、関係性を壊してしまうことがある。社会も自然界も、同じような仕組みで成り立っているように感じた」
インタビューの中で何度か繰り返されたのは“問いかける”という姿勢だ。作家は、明確な答えやメッセージを押しつけるのではなく、観る者に思考の余白を残す
実際の制作では、霊長類の撮影が叶わなかったというハードルもあったが「Wikipediaに掲載されている多くのフォトグラファーの協力で作品が実現し、感謝している」と語っていた。この姿勢からも、作家の根底にあるのは、繋がりや共有といった価値観であることがうかがえる
本作が最終的に投げかけるのは「私たちは次に、何を満たす存在になれるだろうか」という、静かで深い問いだ。注がれたミルクのように、少しずつ──私たちの手で、この世界を満たすことはできないだろうか
この試みは、生命・自然・人間の持続可能性を問う、生命倫理・環境哲学といえるだろう
※国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに記載され、絶滅の危機にあるとされる種は、世界でおよそ42,100種以上(2024年)にのぼる
Text by Haku Kato, based on conversations with Yudai Nakaya
Special Thanks
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Ateles hybridus – Photo by Fir0002, licensed under CC BY-SA 3.0. Source
Trachypithecus leucocephalus – Photo by – , licensed under CC0 1.0. Source
Macaca nigra – Photo by Tim Strater, licensed under CC BY-SA 2.0. Source
Pygathrix nemaeus – Photo by Bjørn Christian Tørrissen, licensed under CC BY-SA 3.0. Source
Propithecus verreauxi – Photo by JialiangGao, licensed under CC BY-SA 4.0, 3.0, 2.5, 2.0 and 1.0
Macaca pagensis – Photo by Sakurai Midori, licensed under CC BY 3.0
Brachyteles arachnoides – Photo by Leonardo Desordi Lobo, licensed under CC BY 2.0. Source
Trachypithecus poliocephalus – Photo by ALOnIShOnETH, licensed under CC BY-SA 4.0
Hapalemur aureus – Photo by Rachel Kramer, licensed under CC BY-SA 3.0
Nomascus siki – Photo by F.Spangenberg, licensed under CC BY-SA 3.0
Plecturocebus oenanthe – Photo by CurtisJTripp, licensed under CC BY-SA 4.0
Cercopithecus roloway – Photo by Hans Hillewaert, licensed under CC BY-SA 3.0
Piliocolobus preussi – Photo by Astaras, used with permission. Attribution required.
Trachypithecus delacouri – Photo by Olevy, licensed under CC BY-SA 4.0
Prolemur simus – Photo by Charles J. Sharp, licensed under CC BY-SA 4.0. Source
Eulemur mongoz – Photo by Lea Maimone, licensed under CC BY-SA 2.5
Eulemur flavifrons – Photo by Charlie Marshall, licensed under CC BY 2.0. Source
Propithecus deckenii – Photo by François, licensed under CC BY-SA 4.0
Lepilemur septentrionalis – Photo by Edward E. Louis, Jr, licensed under CC BY-SA 4.0. Source
Propithecus diadema – Photo by Charles J. Sharp, licensed under CC BY-SA 4.0. Source
Varecia variegata – Photo by Chensiyuan, licensed under CC BY-SA 4.0
Lepilemur ruficaudatus – Photo by Gavinevans, licensed under CC BY-SA 3.0
Nomascus leucogenys – Photo by Hasekamp at Dutch Wikipedia, licensed under CC BY-SA 3.0, 2.5
Cebus trinitatis – Photo by William Stephens, licensed under CC BY-SA 4.0. Source
Propithecus coronatus – Photo by Jose Antonio, Public Domain. Source
Eulemur cinereiceps – Photo by Lemur, licensed under CC BY-SA 4.0
Propithecus candidus – Photo by Jeff Gibbs, licensed under CC BY-SA 3.0
Indri indri – Photo by Charles J. Sharp, licensed under CC BY-SA 4.0. Source
Propithecus perrieri – Photo by Kris Norvig, licensed under CC BY-SA 3.0
Presbytis femoralis – Photo by Andie Ang, licensed under CC BY-SA 4.0
Varecia rubra – Photo by Charles J. Sharp, licensed under CC BY-SA 4.0. Source
Cebus aequatorialis – Photo by MunicipioPinas, licensed under CC BY-SA 2.0. Source
Colobus vellerosus – Photo by Simon Tonge, licensed under CC0 1.0. Source
Propithecus coquereli – Photo by Charles J. Sharp, licensed under CC BY-SA 4.0
Microcebus gerpi – Photo by Blanchard Randrianambinina, licensed under CC BY-SA 3.0
Propithecus coronatus – Photo by Jose Antonio, Public Domain. Source
Brachyteles hypoxanthus – Photo by Peter Schoen, licensed under CC BY-SA 2.0. Source
Callithrix flaviceps – Photo by Peter Schoen, licensed under CC BY-SA 2.0. Source
Cebus kaapori – Photo by CStrauch, licensed under CC BY-SA 4.0
Piliocolobus rufomitratus – Photo by Michal Sloviak, licensed under CC BY-SA 4.0. Source
Sapajus xanthosternos – Photo by albinfo, licensed under CC BY-SA 3.0
Lagothrix flavicauda – Photo by Platyrrhinus, licensed under CC BY-SA 3.0
Plecturocebus caquetensis – Photo by TheActorStar, licensed under CC BY-SA 4.0
Propithecus coquereli – Photo by Charles J. Sharp, licensed under CC BY-SA 4.0. Source
Plecturocebus vieirai – Photo by Miguelrange, licensed under CC BY-SA 3.0
Hapalemur alaotrensis – Photo by Jotaguru, licensed under CC BY 3.0
Saguinus bicolor – Photo by Whaldener Endo, licensed under CC BY-SA 4.0, 3.0, 2.5, 2.0 and 1.0
Pygathrix nigripes – Photo by Broobas, licensed under CC BY-SA 4.0







作品評論
巨大な忘却の風景
中谷優大の新作を前にすると、昨年の《天園》で扱われていた忘却される死というテーマが、今回は人間社会と自然環境の関係へと大きく拡張されていることに気づかされる。
《天園》では、ホームセンターの無機質な部品が、亡くなった子どもたちのための小さな祈祷像として再配置されていた。そこには、社会から消え去ろうとする存在を、最小限の造形によってこの世界へ留めようとする、静かな抵抗があった。今回の作品でも中谷は、失われつつある命を扱っている。ただし対象は個人ではなく、地球規模で消えつつある霊長類たちである。
壁面いっぱいに投影された無数のモノクロ写真。そこには猿たちの顔が、番号とともに現れては消え、また別の像へと置き換わっていく。その光景は、監視カメラの記録映像や、データベース化された顔認証システムにも見える。しかし、映し出されているのは私たちと同じ哺乳類であり、母乳で育ち、感情を持ち、社会を形成して生きる存在たちだ。
それにもかかわらず、グローバリゼーションと大量消費のなかで、彼らは消えていくものとして管理され、記録されている。
ここで思い出されるのは、クリスチャン・ボルタンスキーの仕事である。ボルタンスキーが、匿名化された顔写真の集積を通して、個人の記憶と集団的忘却を扱ったように、中谷の映像もまた、個々の存在を「固有名」ではなく、「反復される痕跡」として提示する。しかし、その対象を霊長類へ置き換えることで、作品は単なる環境問題の啓発ではなく、人間中心主義そのものへの問いへと変化している。
また、立方体に印刷された猿たちの顔も重要だ。それらはミニマルな彫刻として空間に置かれているが、同時に現代社会におけるイメージ消費の構造を露呈している。
動物の写真は、本来であれば命の記録であるはずなのに、SNSでは癒しの画像として流通し、広告では環境配慮の記号として消費される。中谷は、その危うさを感傷的に語るのではなく、冷静に反復し続けることで浮かび上がらせる。
中央に積まれた白いミルクがはいった器は、どこか供物台や祭壇を思わせる。昨年の《天園》において、中谷は匿名の死者に対する祈りの形式を提示していたが、今回もまた、その構造は引き継がれている。ただし祈りの対象は、人間だけではない。
そこには、「人類だけが世界の中心なのか」という静かな問いが置かれている。
この作品は、いわゆる環境アートのように、直接的なメッセージやショッキングな映像によって危機感を煽るものではない。むしろ、中谷の態度は極めて抑制的だ。
その静けさは、ハルーン・ファロッキの映像作品にも通じている。ファロッキが、戦争や監視社会を過剰な演出なしに映像構造そのものから批評したように、中谷もまた、イメージが消費されるシステム自体を露出させているのである。
写真はやがて褪せていく。
フィルムは光を失い、記録は風化し、命は忘れられていく。
しかし中谷は、その消滅の過程そのものを作品として提示することで、私たちに問いを返している。
私たちは、消えゆく命をただ眺めるだけなのか。
それとも、その光を受け取る側へ回ることができるのか。
昨年の《天園》が、社会の片隅で忘れ去られる個々の死に向き合う作品だったとするなら、本作は、人類文明そのものが加速させている巨大な忘却の風景を見つめる作品である。
そして中谷優大は今回もまた、声高に主張するのではなく、静かな反復によって、私たち自身をその風景の当事者として立ち尽くさせるのである。
渡辺おさむ – 中谷優大「ラストミルク – インサイドメモリー」評
原文掲載:note