Herb & Dorothy

Each of the cards responds to the others and resonates.

In the Triangular Theory of Love proposed by psychologist Robert Sternberg,
love in human relationships is said to consist of the following three components:

Intimacy: A relationship in which hearts connect, fostering a sense of security and emotional closeness
Passion: A feeling of strong mutual attraction that quickens the heartbeat
Commitment: The will and decision to maintain the relationship, supported by enduring strength

These three elements balance one another to shape the form of a relationship.

Dedicated to Herb & Dorothy, who continued to love both each other and art.

ハーブ & ドロシー

それぞれのカードは、呼応し合い、共鳴する

心理学者ロバート・スタンバーグが提唱した「愛の三角理論」では、対人関係における愛は、次の三要素から成り立っているとされる

親密さ:心が通い合い、安心感やつながりを感じられる関係
情熱:心拍が高まり、互いに強く惹かれ合う感情
コミットメント:関係を続けようとする意志や決断、そしてそれを支える持続力

この3つは、バランスを取りながら、関係をかたちづくる

美術家を愛し続けた、ハーブ&ドロシー夫妻に捧ぐ

Category: Media Art
Medium: Digital Design, Generative Digital Mediam
Dimensions: H2160×W3840px
Engineer: Katsunori Isono
Collection: Private Collection
Year: 2025

作品解説 & インタビュー

小さな部屋で紡がれた「大きな愛のアーカイブ」

中谷が本作でモチーフとしたのは、アメリカの伝説的なアートコレクター、ハーブ&ドロシー・ヴォーゲル夫妻である。郵便局員と図書館司書という職業に従事しながら、彼らは有名無名を問わず数千点に及ぶ現代美術作品を収集し、その多くを美術館に寄贈した。ごく普通のアパートメントに暮らしながら、生活空間のほぼ全てを作品に捧げたその姿は、まさに「献身的な愛と芸術への情熱を、日常の中で育んだ」存在だった

中谷はそんなふたりの姿を「呼応し合い、共鳴する」カードによって可視化する。赤と青はドロシーとハーブ、アメリカ国旗の色を象徴し、クラブとハートのスートは知性と愛情を表す。そして日々の生活音とともに、ふたりが紡いできた時間の記憶が、そっと浮かび上がってくる

本作の根底には、中谷自身の個人的な記憶がある。12歳の頃、社会的・精神的困難の中で、血縁のおじとおばに保護され、共に暮らすことになった。ふたりは彼に無償の愛を注ぎながらも、事故と病によって数年後に早逝する。その後も第三の家庭で養育された中谷にとって、この経験は「他者のための生」や「愛と創造の倫理」といった根源的な価値観の種となった

だからこそ、この作品は単なるオマージュにとどまらない。スタンバーグの「愛の三角理論」に基づき、「親密さ・情熱・コミットメント」に沿って、「無名性と継続のなかに宿る愛のかたち」を造形化する試みである。社会的成功とは無縁の価値観、芸術への情熱、そして見返りを求めない愛の記憶。それらがひとつのカードの動作に込められ、ハーブの他界((2012年・享年89歳)後もなお、彼らの魂が響き合い続けていることを象徴している

この作品は、記憶と想像が織りなす「愛の連なり」として、観る者それぞれの心の深層に触れ、確かに「愛の記憶」を揺り動かす。それは、芸術における哲学のひとつの実践であると言えるだろう

Art Commentator: Y. Kato