






Genuine Wrapping – Mouse
The surface label is a social symbol that signifies value, trust, and authenticity.
However, once it is peeled away, the word “invalid” appears.
Whether to reveal that invalidity, to preserve the authenticity, or to let it come off naturally—each of these paths has its limits.
Characters that once symbolized dreams have now become icons of the economic system, and those dreams have turned into expensive commodities.
Even in a world where everything is merely temporarily owned, we are still pressured to possess manufactured value—and to prove ourselves as “authentic.”
Our skin, like a label, suffocates within the confines of those values.
And yet, if the “invalid” we arrived at was born not from confusion, but from struggle—then perhaps that is exactly what constitutes human vitality and true beauty.
ジェニュイン ラッピング – マウス
表面のラベルは、価値や信頼、本物を示す社会的な記号である
しかし、ひとたびそれを剥がせば「無効」という文字が現れる。無効を見せるか、本物を保つか、あるいは自然に剥がれるか。そのいずれにも限りがある
夢の象徴だったキャラクターも、今や経済システムのアイコンとなり、夢は高額な商品へと変わった
すべてが仮所有にすぎない世の中でも、つくられた価値の所有を迫られ、私たちも「本物」であることを求められている。その皮膚は、ラベルのように価値の中で息づまっていく
それでも記号に惑わされず、もがいてできた「無効」ならば、きっとそれこそが、人の生きる力であり、美しさなのだろう
Category: Sculpture
Medium: Mixed Media, Genuine Wrapping
Dimensions: H120×W110×D130mm
Photography: Yudai Nakaya
Collection: Private Collection
Year: 2025
作品解説 & インタビュー
“本物”が剥がれても——Genuine Wrapping が問う価値の行方
「どこもかしこも、高価なもので溢れていて、それが“本物”として信じられている。それって、本当に価値があるのだろうか」
そう問いかけるようにして、中谷は作品「Genuine Wrapping」を制作した。モチーフに選んだのは、商品に貼られる「Genuine Label(正規品ラベル)」。偽造品との差異を明確にし、消費者に安心感を与えるこのラベルは、現代における「価値」や「信頼」の象徴として、多くの製品の表面に貼られている
「社会の中で生きていると、“本物”かどうかを常に問われるような場面があって、その空気に息苦しさを感じていた」
本作で使用されたラベルは、実際に使用されている二重構造のもので、表面を剥がすと「VOID(無効)」という文字が残り、ラベルとしての役割を終える。中谷はこの機能そのものに着目し、「剥がれ」や「無効化」を絵画表現へと転用した。そこには、表層的な保証や価値が失われたあとにこそ、むしろ人間らしい美しさが現れるのではないかという視点がある
「絵画であれば、インクが剥げたり、削れたりすることを、ふつうは“劣化”や“欠損”とみなす。でも自分は、それを人生の中でできた“傷”のように思っていて。人と同じように、完璧じゃない美しさを表現したかった」
本作「Genuine Wrapping」は、制度としての「美術」や「信頼性」に対する、逸脱の試みとも言える。私たちが日々目にするラベルや認証。それらは一見、安心をもたらす仕組みであると同時に、見えないかたちで価値や存在を枠にはめ、抑圧する装置にもなりうる。だが、その“VOID”が露呈したとき、むしろそこにこそ、本来見えていなかったものが立ち上がってくるのではないか。中谷はそうした逆説を、素材そのものを通して提示している
「無効になっても、そこに残るものがあるなら、それはもう一つの“本物”だろう」
この作品において、ラベルは単なるモチーフではない。貼られ、剥がれ、意味を失うことで、かえって浮かび上がる「人間らしさ」の所在。中谷は、無価値とされるものの中にこそ、確かな生命の輝きを見出そうとしている
本作は、美と意味、そして記号との関係を掘り下げる、芸術と言語の哲学的探究でもある
Art Commentator: Y. Kato