

Genuine Painting
The surface label is a social symbol that signifies value, trust, and authenticity.
But once it is peeled away, the word “invalid” appears.
Whether one chooses to reveal that invalidity, preserve authenticity, or allow it to peel away naturally—each path has its limits.
Even paintings, once symbols of artistic expression, have now become icons of the economic system, and the act of viewing has turned into a high-priced commodity.
In a world where everything is merely temporarily possessed, we are still pressured to own manufactured value.
We ourselves are expected to be “authentic.”
Our skin, like a label, suffocates within the framework of value.
And yet, if the “invalid” we arrive at has come through struggle, not illusion, then perhaps that is exactly where human vitality and beauty reside.
ジェニュイン ペインティング
表面のラベルは、価値や信頼、本物を示す社会的な記号である
しかし、ひとたびそれを剥がせば「無効」という文字が現れる。無効を見せるか、本物を保つか、あるいは自然に剥がれるか。そのいずれにも限りがある
芸術の象徴でもある絵画も、今や経済システムのアイコンとなり、鑑賞は高額な商品へと変わった
すべてが仮所有にすぎない世の中でも、つくられた価値の所有を迫られ、私たちも「本物」であることを求められている。その皮膚は、ラベルのように価値の中で息づまっていく
それでも記号に惑わされず、もがいてできた「無効」ならば、きっとそれこそが、人の生きる力であり、美しさなのだろう
Category: Concept Painting
Medium: Canvas, Genuine Painting, Mixed Media
Dimensions listed individually
Photography: Yudai Nakaya
Collection: Private Collection
Year: 2025
作品解説 & インタビュー
“本物”が剥がれても——Genuine Painting が問う価値の行方
「どこもかしこも、高価なもので溢れていて、それが“本物”として信じられている。それって、本当に価値があるのだろうか」
そう問いかけるようにして、中谷は作品「Genuine Painting」を制作した。モチーフに選んだのは、商品に貼られる「Genuine Label(正規品ラベル)」。偽造品との差異を明確にし、消費者に安心感を与えるこのラベルは、現代における「価値」や「信頼」の象徴として、多くの製品の表面に貼られている
「社会の中で生きていると“本物”かどうかを常に問われるような場面があって、その空気に息苦しさを感じていた」
本作で使用されたラベルは、実際に使用されている二重構造のもので、表面を剥がすと「VOID(無効)」という文字が残り、ラベルとしての役割を終える。中谷はこの機能そのものに着目し、「剥がれ」や「無効化」を絵画表現へと転用した。そこには、表層的な保証や価値が失われたあとにこそ、むしろ人間らしい美しさが現れるのではないかという視点がある
「絵画であれば、インクが剥げたり、削れたりすることを、ふつうは“劣化”や“欠損”とみなす。でも自分は、それを人生の中でできた“傷”のように思っていて。人と同じように、完璧じゃない美しさを表現したかった」
この考えは、中谷が提唱する「Concept Painting」という新たなカテゴリにも通じている。描くことよりも考えることを優先し、色彩や構図といった視覚的要素の手前に、作品の構造や問いが立ち上がってくる
「絵画って、もっと自由であるべきものだと思っている。けれど今は、美術館にある作品の多くが“高額商品”になっていて、気軽に見に行くことも難しい。そうした現状を問い直すために、あえてインクを使わない絵画に取り組んだ」
本作「Genuine Painting」は、制度としての「美術」や「信頼性」に対する、逸脱の試みとも言える。私たちが日々目にするラベルや認証。それらは一見、安心をもたらす仕組みであると同時に、見えないかたちで価値や存在を枠にはめ、抑圧する装置にもなりうる。だが、その“VOID”が露呈したとき、むしろそこにこそ、本来見えていなかったものが立ち上がってくるのではないか。中谷はそうした逆説を、素材そのものを通して提示している
「無効になっても、そこに残るものがあるなら、それはもう一つの“本物”だろう」
この作品において、ラベルは単なるモチーフではない。貼られ、剥がれ、意味を失うことで、かえって浮かび上がる「人間らしさ」の所在。中谷は、無価値とされるものの中にこそ、確かな生命の輝きを見出そうとしている
本作は、美と意味、そして記号との関係を掘り下げる、芸術と言語の哲学的探究でもある
Art Commentator: Y. Kato